【5】 ファッション業界の取引習慣・ルール

第6回目は、
「ファッション業界の取引習慣・ルール」
について説明します。

ファッション業界には、
特殊な取引形態・条件が存在しています。

ただ、この独特な取引形態・条件は、
あらゆるファッションビジネス関連企業との、
取引に起きる内容ではなく、
ファッション商品の「売り」「買い」の時にしか起きません。

具体的には、
アパレルメーカーから商品を仕入れる場合や、
逆に、自社のファッション商品を売り込む場合です。

独特な取引形態・条件の説明に入る前に、
覚えておかなければならない用語・概念が1つあります。

「掛率」です。

具体例を挙げた方が、
掛率の概念を理解しやすいと思います。

ファッションブティックを経営しており、
店頭で販売する商品を、
あるアパレルメーカーから仕入れると仮定します。

店頭で1万円で販売する商品を、
1万円で仕入れたら1円も儲かりませんので、
仮に、6千円で仕入れたとします。

アパレルメーカーから見た場合、
1万円相当の商品を6千円、
つまり「60%」の価格=卸値で販売しています。

この率を「掛率」と言います。

仕入れた側は、
6千円で仕入れた商品を1万円で売ることができれば、
4千円の利益になります。

アパレルメーカーの場合、
その商品を生産する費用がかかりますので、
原材料費・加工費が3千円だと仮定した場合、
卸値の6千円から3千円を引いた、
3千円が利益になります。

商談時は、この掛率を巡る交渉が起きることになります。
ただ、上下限範囲は、基本、数%以内になります。

この場合、どこ(誰)に売るのか、
どちらがリスクを(より)負うのかにより、掛率が変わります。

例えば、有力な相手ほど、
自分の利益を上げようと交渉してきます。

有力な相手とは、
販売力の強い販売店、仕入れ量が多い販売店、
有力アパレルメーカーなどになります。

取引したい相手が大勢いるため、
取引相手を選ぶことができ、強気の交渉が可能なためです。

次に、リスクの説明ですが、
取引形態を大きく分けた場合、以下の3つになります。

(1)買取 (2)委託 (3)消化(仮伝)

(1)の買取とは、
原則、返品を認めない取引形態・条件になります。

最終的に売れ残っても、仕入れた側は返品できないため、
仕入れ値を割ってでも、仕入れ商品を処分しなければなりません。

完全買取とも言います。

ただ、条件付買取という、変則的な取引形態も存在します。

仕入れ量の10%だけ返品を認めるとか、
または、バーゲン販売開始時、仕入れ値を計算し直す=安くする形で、
相手のリスクを軽減させます。

例えば、通常販売時(業界用語で、プロパーと言います。)には、
1万円相当の商品を、6000円で仕入れたとします。

セール時に、50%OFF=5000円で販売した場合、
仕入れ値が6000円のため、1000円の赤字になってしまいますが、

セール開始時に、掛率の変更を行い、
60%ではなく、例えば、42%に変更します。

仕入れ値が、6000円から4200円に変更されたため、
5000円(50%OFF)で販売しても、800円(8%)の利益が残る計算になります。


次に、(2)の委託とは、
返品を完全に認める取引形態・条件を意味します。

ただ、商品を仕入れた時点で、
(一旦)全仕入れ分の支払いが発生します。

売れ残った場合、商品は返品できますが、
返品分の仕入れ金額は後日、返金されます。

売り逃げ、商品の持ち逃げを防ぐ、
保証金のようなものと考えれば良いと思います。

最後に、(3)の消化(仮伝)とは、
商品が売れた時に、仕入れたことにする取引形態・条件のことです。

例えば、百貨店のファッション売り場に行くと、
沢山のブランドショップがあり、
そのショップごとに、沢山の服が並べられていますが、
一部の売り場を除き、大半は消化(仮伝)の取引形態になります。

分かりやすく言えば、倉庫に商品を置いている状態と同じです。
その倉庫の場所が、たまたま某百貨店の売り場に過ぎないということです。

百貨店側から見た場合、
現実的には商品が置いてある=売られている訳ですが、
伝票上は商品を購入していないことになっています。
つまり、仕入れ時の支払いが発生していません。

商品が売れた場合、その売れた商品分だけ、
百貨店が本伝を起票し、アパレルメーカーに代金を支払います。

ちなみに、
本伝とは、本伝票、
仮伝とは、仮伝票という意味です。

アパレルメーカーは、消化の取引場合、
売れなければ、利益が出ませんが、
大勢のお客が来る百貨店という売り場を使い、
商品を販売することができます。

以上、3つの取引形態を説明しましたが、
商品を仕入れる側としては、
(1)消化 (2)委託 (3)買取の順番で、
リスク(売れ残りの処分など)が低くなります。

逆に、商品を提供する側としては、
(1)買取 (2)委託 (3)消化の順番で、
リスク(返品の発生など)が低くなります。

お互いの強さが、取引形態を決定することになります。

例えば、
取引先が大手百貨店の場合、
原則、「消化」でなければ、自社商品を売り込むことができません。

有名メーカーに対し、
少量しか仕入れられない小売店、
販売力のない小売店などが商品を仕入れようとした場合、
取引自体を断られるケースが多いのですが、
取引が実現したとしても、「買取」になります。

最後に、余談になりますが、
取引交渉を行う際、
大切な心構えをお伝えしたいと思います。

時々、
「今、売れている・人気のあるブランド(メーカー)を教えてよ。」と、
質問されることがあります。

売れている・人気のあるブランドの商品を販売すれば、
売上を上げやすいと考えているからだと思います。

その後、取引が実現した報告を受けないため、
理由を尋ねると、大概、

「教えてもらったメーカーと話をしたが、買取と言われ、断念した。
我々は、ファッションビジネスのプロではないので、
商品を売り切る自信が全くなく、
返品可能な委託取引を求めたが、
買取のみと言われたため、断念せざるを得なかった。」

このような発言をされる方が多く、非常に驚きます。

なぜなら、自分のことしか考えていないからです。

有力なブランドメーカーの場合、
取引をしたいという相手は大勢います。
取引先を選べる立場にいます。

販売力に自信や、資金に余裕もあり、
買取でも取引したいという相手もいます。

商品を送っても、売れない可能性が高い相手に対し、
返品に応じる委託取引に応じる訳がありません。

ファッションの商品は、
季節性の商品であり、その上、流行品です。

例えば、毛皮のコートが春に返品されたとしても、
市場では、もう売ることができません。

春に売ろうとすれば、大きく値引した上、
販売するしかありませんが、
値引した分、利益が大幅に減りますし、
下手すれば、利益が残るどころか、大赤字になります。

次の冬まで保管し、値引せずに販売しようとした場合、
次の冬は、毛皮のコートではなく、
羽毛のダウンジャケットが流行するかもしれません。

その場合、毛皮のコートが処分できなくなります。

返品商品の受け入れ作業・労力、
返金処理の作業・労力も発生します。

このような背景を理解せず、
自分たちはファッションビジネスの知識・目利きがない、
だから、返品可能な委託でなければ取引できない、
このような利己的な発想をされる方が大勢います。

商品を売り込む側から見た場合でも、同様です。

無名ブランドが、有力な販売相手に、
買取で取引してもらえることはありません。

有名ブランドの商品を仕入れたい場合は「買取」、
有力な販売相手に自社商品を売り込みたい場合は「委託」か「消化」
というのが、業界の常識です。
 

0コメント

  • 1000 / 1000